チリー・ゴンザレス(Chilly Gonzales)ことジェイソン ・ チャールズ ・ ベック(Jason Charles Beck)は、カナダ生まれのミュージシャン。もう6、7年ほど前になるでしょうか、音楽好きの知人からピアノソロアルバムを薦められて聞き、すっかり虜になってエンドレスに再生していたことを思い出します。音楽に疎い私なりに表現すると、重厚かつ軽快。不協和音を交えながらも旋律はあくまでもキャッチー。ご存じない方はこちらを聞いてみてください。
さて、そのチリー・ゴンザレス。新しいピアノアルバムが発売されると同時に、半生を振り返るドキュメンタリー映画が公開されるということで、さっそく渋谷のシネクイントに見に行ってきました。
実は、ピアノアルバムを聞きまくっていた反面、彼の素性については全く知らず、クラシック寄りのジャズピアニストかなあという程度に考えていたのですが(ファンの方、すみません!)、映画を見て驚きました。元々はラップミュージックとエキセントリックな言動で世間を騒がせていたのですね。ゲイミュージックのシンボルと目されていたこともあるそうで・・・。
大音量の早口ラップで強烈にメッセージを発しまくっていたチリー・ゴンザレスですが、特に大きなきっかけとなるできごとがあるわけでもなく、気の赴くままにピアノアルバムを出します。そして、そのピアノの音色は、驚くべきことに、それまでの彼のパフォーマンスとは全く正反対の、静かで深みのあるオールドウィスキーのような味わいを放つものでした。
ピアノアルバムによって「天才」と評されるようになったゴンザレスですが、ライブパフォーマンスでは再び以前のようなラップを披露して、静かなピアノを期待して来ている観客を唖然とさせたりします。本映画のタイトル「黙ってピアノを弾いてくれ」(Shut Up and Play the Piano)というのは、彼のピアノのファンの気持を代弁しているわけですね。
ただ、映画の中でも本人が言っていますが、「軽くて深い」音楽を追求するスタンスは一貫していて、凡人には到底理解が及びませんが、 それがあるときはエキセントリックなラップになり、あるときは静かなピアノプレイになるだけなのでしょう。音楽に愛された天才だからこそできることだと思います。
狂気を孕んだ天才ミュージシャンのファン、音楽好きの方、そして閉塞した社会に嫌気がさしているいるあなた、是非、この映画を見てみてください!