山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「キングダム」


説明不要の国民的漫画「キングダム」の映画化作品。と言いつつ、私自身は原作未読だったりするのですが、久々の国産大作映画に対する期待と、日本の制作陣が中国を舞台にした作品をどのように仕上げるのかという興味(と不安)から、以前から出来栄えが気になっており、公開初日に観に行ってきました。

舞台は紀元前3世紀。秦の将軍である李信を主人公に据えて、始皇帝が中国最初の統一国家・秦を立国するまでを描く物語。大まかな話の筋や設定は史実に基づいていますが、それ以外の部分はフィクションであり、歴史を元にしたファンタジー作品と言うべきでしょう。本作は原作で言うと最初の数巻に相当する部分だそうで、弟の反逆により国を奪われた兄(後の始皇帝)が王都に帰還するまでの話です。

夢を熱く語ることを憚らない熱血漢の主人公が、周囲を巻き込みながら悪い奴を倒していくという、エンターテイメントの王道のど真ん中を突き進むストーリーがとても気持ち良いです。変に奇をてらったり難解さを全面に出したりして、視聴者を突き放すような作品も少なくない中で、この堂々とした直球勝負の潔さは見事。少々テンポが悪いシーンもあったりするのですが、最後まで飽きずに作品の世界観に没頭することができました。

冒頭で触れた日本の制作陣に対する不安ですが、現地のスタッフからも相当な協力を得ていたらしく、全体としては、古代中国の雰囲気や規模感を作り出すことに成功していたと思います。ただ、中国の歴史ドラマや映画を見慣れている立場からすると、日本式の演出にはどうしても違和感を感じてしまいました。特に気になったのが、出演している俳優陣の演技がどこか小ぢんまりと見えた点。日本人俳優の演技は自然さを志向しているように見えるのですが、広大な中国を舞台に戦乱の世を描いているのですから、本場中国の武侠作品のように、俺(私)のことを見ろ!と言わんばかりの外向きの大げさな演じ方をした方がしっくり来るように思います。

この点、王騎を演じる大沢たかおさんの怪演とも言える演技は、巷では賛否両論あるようですが、私は大正解だと思いました。気持ち悪さと強さを兼ね備えた異様な雰囲気のキャラクターが際立っていて、物語の終盤では完全に主人公たちを喰ってしまっていましたね。原作ではどのように描かれているのかが気になります。

少々ネガティブな意見も書いてしまいましたが、このゴールデンウィークの目玉作品として十分映画館で見るに値する佳作だと思います。特に原作ファンの方、是非、原作と比べた上での感想を聞かせてください。