山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(Little Women)

コロナウイルスの影響で映画館に行けなかった数カ月間。動画配信サイトも便利で良いのですが、やはり、2時間ちょっとの間、暗闇の中で大画面と大音響に包まれながら作品の世界に没入できる映画特有の魅力は他では代えられないもの。久しぶりの映画館となれば、できるだけ上質な映画を観たいですよね。普遍性のあるテーマを中心に据えつつもあくまでエンターテイメントであるもの、ストーリーだけでなく視覚と聴覚でも楽しませてくれるもの、見るものの心を捉えて離さない吸引力のあるもの。ちょうどぴったりの作品が公開されていますよ!

タイトルからわかるとおり、オルコット(Louisa May Alcott)の半自伝小説である若草物語(Little Women)の映画化作品です。私は原作未読であり、また、過去に作られた幾つかの映像化作品も全く見たことがありませんので、純粋に独立した作品として楽しみました。南北戦争1861年から1865年)の時代のアメリカを舞台として、多感な時期を迎えていた四姉妹が、結婚、死別、仕事といった人生のイベントを経験しながら成長していく過程を、次女ジョーの視点から描いています。

異なる時間軸の話を交互に見せながら、各登場人物の心の動きを的確に映し出していく展開にベテラン監督のような老練さを感じたのですが、なんと監督は女優出身で私より年下のグレタ・ガーウィグ(Greta Gerwig)。人種問題、貧困、男女格差などの社会的な問題にもしっかりと触れつつ、決して押しつけがましさや深刻さに支配されることなく、視聴後には清々しさで心が満たされるような作品に仕上げているのは見事の一言。凄い女性監督が出てきました。

豪華な役者陣が期待通りの演技をして、各登場人物のキャラクターの強さや弱さを表現しているのも見どころです。中でも、主人公である次女ジョーを演じたシアーシャ・ローナン(Saoirse Ronan)の理性と本能の狭間で揺れ動いている演技は素晴らしかったです。子役の頃から活躍していましたが、ここに来てハリウッドを代表する本格演技派若手女優としての地位を不動にした感じがしますね。実年齢もまだ20代中盤で、10代後半の幼さの残るキャラクターから、独り立ちした成年女性としての成熟性を醸し出す演技までできてしまうのですから、作品の側が放っておかないでしょう。この映画も、彼女の豊かな表情の変化を見ているだけでも十分楽しめます。

他にも、色彩に満ちた調度品や衣装(アカデミー賞で衣装デザイン賞を受賞しています)、巧みに視聴者を引き付ける視覚効果と感情を揺り動かす音楽など、楽しむポイントが多い作品です。人によって着目する点は異なるでしょうが、どの点をとっても一級品の仕上がりになっていると思います。日本語題がちょっとダサい感じがするのは多めに見ましょう(笑)。ただただ余計なことを考えずに映画館の座席に腰って、それから2時間の間、作品の世界の中にどっぷりと浸る。そんな贅沢のお供になってくれる作品です。