山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「ミステリと言う勿れ」


公開後なかなかタイミングが合わず観に行けないうちに、一足早く観に行った長男の「すごく面白かった!」という感想。自分の得意分野で我が子に先を越された悔しさも追い風となり、スケジュールの合間を縫って映画館に駆け込みました。

テレビシリーズ版は、回によって若干の波はあったものの総合的には見応えのある良い作品でした。特に、シリーズ後半でのサブヒロイン・ライカを巡る展開は、内容面でもビジュアル面でも非現実的な美しさが漂っていて大変印象的でした。今回の映画版、ライカが出てこないのは残念ですが、それを補って余りある魅力に溢れる素晴らしい作品に仕上がっていました。

主人公・久能整(くのうととのう)は東京の「普通の大学生」でありながら、非凡な観察眼から様々な難事件を解決して周囲を驚かせる存在。そんな久能くんが、美術展を見に訪れた先の広島で、莫大な遺産を巡る相続人たちの争いに巻き込まれるという物語です。テレビシリーズの設定は引き継いでいますが、独立した話として完結しているので、いきなり本作から見ても十分に楽しめると思います。

まず、ひょうひょうとして捉えどころがない、けれども極めてロジカルに物事を分析して真相に最短距離で進む、久能くんの唯一無二の個性が最高です。この突拍子もないキャラクターがテレビシリーズ版よりもますますリアリティを持った存在として描かれていて、どこかちぐはぐな会話のやりとりだけで、あっという間に時間が経ってしまうほどの面白さがあります。主演の菅田将暉さんを始めとする俳優陣の演技も冴え渡っていました。

加えて、本作は、テレビシリーズから引き継いだ設定の妙に甘えることなく、それ単体で大変に見応えのあるミステリ作品としてひとり立ちできています。その秘訣は、シンプルながらも緻密に構築されたストーリー。小気味よく話が展開する中で大小の伏線が巧みに回収され、二重、三重のオチも用意されていて、最後までダレることがありません。閉鎖的な片田舎が舞台であるがゆえに、ミステリの興を削ぐ現代的なテクノロジーの要素が排除されているのも良いですね。社会派と本格派の双方の要素を両立させることに成功しています。

なお、公開前に流れていた予告編は本編の充実ぶりを全く彷彿させないおちゃらけた作りでしたので、予告編を見てマイナスの印象を持った方には、予断を排除して本編を見てみることを強くおすすめします。私としては、日本のミステリ映画作品の中では、「砂の器」や「容疑者Xの献身」に並ぶ完成度の高い作品だと思っています。少なくとも、一見、いや二見以上の価値があることは保証できます。