山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」


このブログで一番最初にレビューした作品は2018年公開の「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」(Fallout)でした。それから5年。コロナで度重なる撮影中断があったり、公開直前に全米俳優組合のストライキが開始されて出演陣の来日イベントが中止になったりといろいろありましたが、とうとう最新作が公開されました。当然、公開初日に映画館に突入。劇場には私と同じように公開を待ちわびていた人たちが集まっていて、期待に胸を躍らせる高揚感に包まれていました。おお、同志たち!

サブタイトルの「デッドレコニング」(Dead Reckoning)は、「死の報い」という直訳的な意味と、航海の際に限られた情報から現在位置を推測して航行する「推測航法」の意味があるようです。どの時点でこのサブタイトルが決まったのかはわかりませんが、どちらの意味合いも、本作を支える屋台骨のような要素として全編に色濃い影を落としている感じがします。主人公のイーサンは、実力と実績に裏打ちされた自信に満ちたキャラクターのはずですが、本作では終始物憂げな表情。そう、本作は、イーサンが強大な悪意に飲み込まれまいと必死でもがく過程を描いた、少々ダークテイストな作品なのです。

目まぐるしいストーリー展開と緊張感あるアクションの連続は、毎度おなじみ。事前公開で私たちの度肝を抜いた驚愕のメイキング映像のシーンも、実は本編では短いワンシーンに過ぎないという、相変わらずの堂々たるかぶき者ぶり。「ミッション:インポッシブル」シリーズは、トム・クルーズがそのありったけの情熱を注ぎこんでライフワークとして制作しているもの。運よく同世代を生きる私たちがこれを見逃すのは、あまりにも勿体ない。

面白いのは、さり気なく過去のシリーズ作品のオマージュがちりばめられている点。鉄道列車での肉弾戦や心理的駆け引き(第1作)、砂嵐の中での格闘(第4作)、遠距離からのライフル狙撃(第5作)、垂直落下からの脱出(第3作、第6作)と、昔からシリーズ作品を見てきたファンにはたまらない古典的とも言える演出が続きます。深海に沈んだ潜水艦の謎が未解決のまま残っていることからすると、来年公開予定の次作では、トムの水中ミッションシーン(第5作にありましたね)が見られるのではないかと期待してしまいます。

前作に引き続き、全体の尺の長さと、わびさびに欠ける点は、少々気にはなりました。シリーズ作の中で比較すると、個人的には、第1作や第5作(ローグ・ネイション)のような、引き算の美学も加味された洗練された雰囲気が一番好きです。ただ、本作を観ていると「トムがやりたいことを全部やろう!」という制作陣の気概が確かに伝わってきて、単純なマーケットインの思想だけでなく、プロダクトアウトでの「ものづくり」が多分に意識された作品であるように感じました。これだけシリーズ作品が多く作られて今なお右肩上がりで支持を集めているのも、制作側の情熱が確実に視聴者側に届いているからでしょう。これぞ、映画です。

シリーズ初の二部作として制作されていることや、過去作品のセフルオマージュをしていること、終焉を見据えたシナリオ構成であること、また、俳優陣が高齢化してきていることなどから考えると、この二部作は集大成として作成されているもので、次作をもってシリーズ作品の制作が一休みする可能性もあるところです。気が付けば、トムももう61歳。本人は80歳まで現役でやると言っていますが、さすがに長距離を全力疾走するおなじみのシーンを続けることは難しい気がします。そんな風に終わりを意識しながらスクリーンを観ていると、ますます一つ一つのシーンが見逃せなくなってくるところです。