山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

ドラマ:「ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)」


年が明けてからしばらくの間、映画館に行かずに大作ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」(Game of Thrones)にかかりっきりになっていました。

2011年から2019年にかけて、米国作家の小説「氷と火の歌」を米国のケーブルテレビ局HBOが映像化して放映したシリーズドラマで、合計8シーズン73話で構成されるとんでもなく重厚長大な作品です。日本ではそれほど認知されていませんが、欧米や英語圏の国では大ヒットしており、私が留学していたのときにも留学生の間で話題になっていました。現在、見放題で視聴できる日本の配信サービスはU-NEXTだけのようです。

史実(中世イングランド薔薇戦争)を基盤に、少しだけファンタジーの要素が加えられて、リアルと不思議が絶妙に両立した壮大な世界観が構築されています。日本風に言うと、妖怪やお化けが登場する戦国時代劇と言ったところでしょうか。膨大な制作費が投じられているだけあって、自然の風景、街並み、建物、調度品、衣装といったものの細部までが作りこまれており、シリーズドラマとは思えない美しい映像になっています。

独立した複数の物語が並走し終盤に向けて徐々に収斂していくのですが、いずれにおいても基本となるのは「昨日の友は今日の敵」という忠誠と裏切りの権力闘争。人間関係が複雑である上に、登場人物にまつわる事柄は断片的にしか語られず、初見の視聴者は、そこで何が起きているのかの全貌を把握することはできません。中心的なキャラクターでも突如として凄惨な仕打ちを受けたり命を落としたりし、また、異様に生々しい暴力描写や性描写が続くこともしばしば。


このような「よくわからないが何か凄いことが起きている」状況を目撃しているうちに、徐々に人間関係や背景事情がわかってきて、やがて断片的な情報が繋がり全体像が見えてきます。点と点と繋がったときの爽快感は何物にも代えがたいものがあり、これだけ長いのにまた最初から見たくなってしまう中毒性があります。

各登場人物が自己の信念を語る場面が多く、人生観の結晶のような輝きを放つ名言が多いのも特徴的です。最終シーズンの最終話で開催される王を決める評議会では、このような言葉が発せられます。

「人々を団結させるものは何か・・・物語だ。良い物語ほど強いものは何もない。」
(What unites people? Stories. There is nothing in the world more powerful than a good story.)

人間社会に対する的確な洞察が伺えるこの印象的な言葉は、「ゲーム・オブ・スローンズ」の社会現象を作り出した制作陣が結びの言葉に代えたものとも言われています。

作品全体を顧みると、果てしなく長大な時間を使って、どんな人間も善良さと悪質さを併せ持っていること、信念が必ず報われるとは限らないこと、一面から見ると正当なことでも他面から見ると不合理そのものであること、命はいつ終わるかわからない儚いものであり、そうであるからこそ生への礼賛と執着が生まれるといったことが、様々な角度から、繰り返し繰り返し表現されています。これらを全く別の観点から「物語」という言葉で束ねて作品を総括する制作陣のセンスに、思わずうなりました。そう、人の所業の積み重ねが即ち物語であり、そうして紡がれた物語こそが人を強く引き付けるのですね。