山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「THE FIRST SLAM DUNK」

アジアを中心に世界中で絶大な人気を誇っているスラムダンク。私が台湾にいたときにも、よく湘北高校のユニフォームを着てストリートバスケで汗を流している少年たちを見かけました。そのスラムダンクの20年以上ぶりの劇場版作品ということで、もちろん公開直後に鑑賞してきました。合言葉のように「スラムダンクの映画、観た?」という会話が交わされるくらいのヒットになりましたが、ストーリーや設定を語ることが直ちにネタバレに繋がることから、レビューについては息をひそめていました。そろそろ大っぴらに語っても良い頃合いになったかと思い、ネタバレレビューを公開します。

舞台は、原作漫画における最終決戦、盛り上がりが最高潮に達するインターハイの湘北VS山王工業戦。アニメシリーズでも描かれていなかったこの山王工業戦に思いっきりフォーカスしつつ、なんと、キャラの立った湘北レギュラーメンバーの中で一番地味だった宮城リョータを主人公に据えてリバイバルしたのが本作です。このような本作の設定は公開前には完全に秘匿されていて、私も予告編を見て「この1on1をやっている少年は誰なのだろう」と怪訝に思っていました。本編が始まって早々、本作が「リョータの目線を軸として山王工業戦が語られる物語」であることがわかり、その瞬間、設定の妙とその後の展開に対する期待で全身にぞわぞわっと鳥肌が立ちました。往年のスラムダンクファンであれば皆同じ思いを感じたことでしょう。映画館でこんなにも最高の瞬間を味わえるとは!

そのリョータ、実は悲しい境遇を乗り越えてバスケットコートに立っていました。父親、そしてバスケを教えてくれた兄と、身内が相次いで亡くなり、大好きなバスケに関しても周囲からは兄のような才能は無いと揶揄され、学校でもチームでも周囲と上手くやっていくことができず、すっかり自暴自棄になっています。そのリョータの実力を高く評価し、新しいチーム作りのキーマンとして救い上げたのが赤木だったというわけです。このあたりは完全に映画のオリジナルストーリーであり、原作では当然の前提とされていた赤木とリョータの信頼関係や、ちょっとやさぐれた感じのリョータの人となりがどのようにして形成されたのかが自然に語られています。リョータを中心とした登場人物たちの内面に迫る「静」のシーンと、山王戦の汗ほどばしる熱い熱い「動」のシーンとが交互に展開し、物語は架橋へと進んでいきます。

ビジュアル面は、ちょっと見ただけで素人目にも分かるほど極めて革新的。アニメとも実写ともつかない、フルカラーのペン画がそのまま動いているようなタッチのキャラクターが生き生きと動いている映像には本当に驚かされます。特に試合中のシーンは、躍動感のある登場人物の動きとカメラワークによって、現実を超える「本物感」が満ちた映像が再現されています。実際の試合のシーンを再現した実写映像をベースにCG映像を作成し(ここまでは通常のモーションキャプチャ―)、ここから更に原画レベルに落とし込んで動きや体制を修正して、それを再びCG映像に反映させるという、とんでもない手間をかけて作ったものだそうです。多分、スマホタブレットで観ても十分な映像美だとは思いますが、やはり、映画館の大画面で迫力ある映像を観ないともったいないです。まだ観ていない方は、是非映画館へ。

原作の熱心なファンの方、特に山王工業戦を何度も読み返してセリフまで覚えているという方は、ひょっとしたら原作との違いが気になるかもしれません。ただ、本作は単に原作を映像化したものではなく、原作をベースにしつつも新しい設定、技術、解釈といったものがふんだんに取り入れて出来上がったものです。時折原作を思い出しつつ、「新しいスラムダンク」だと思って本作の世界観に浸っていると、最後のシーンのサプライズで思わず笑顔を抑えきれなくなってしまうこと間違いなしです。リョータ、頑張れ!!