山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「ゴジラ −1.0」


ゴジラの生誕70周年記念にして、実写のゴジラ映画としては通算30作目となる作品。第二次世界大戦(太平洋戦争)によって焦土となった日本に、更に追い打ちをかけるようにゴジラが襲い掛かります。タイトルの「−1.0」(マイナスワン)には、ゼロからの復興どころか更なるマイナスへ突き落される人々の宿命を表していると説明されています。

その「−1.0」を具現する本作のゴジラ。海底をのっそりと泳ぐ巨大な影しか見えない段階から始まり、徹頭徹尾とにかく怖いのです。海上ににゅっと顔を出しては鋭い目と背びれで威嚇し、地上での二足歩行で巨大な全身を晒すと、その次には口から絶望的な破壊力の熱線を吐き出して一瞬で街を壊滅させます。どの場面でも、ゴジラの見せ方のカメラワークが非常に上手く、それがフィクションだとわかっていても怖くなってくるほどでした。ゴジラ映画の神髄が「ゴジラをどれだけ怖く描けるか」という点にあるとすれば、この点で本作は過去作品と比べても際立っていると思います。

このあまりにも強大かつ凶暴な存在に対峙する、人間の側。ゴジラとの戦いの中で、必然的に「なぜ戦うのか」「何を守りたいのか」という問題について向き合います。物語として明確に語られる部分について言えば、登場人物たちの背景と葛藤の描写にやや奥行きが乏しい点も見られました。ただ、主演の神木隆之介さんを始めとする俳優陣の演技が素晴らしく、表立っては語られない裏設定の部分まで演技で表現されているように感じました。そう、映画では、全ての設定を言葉で語る必要は無いのです。

ゴジラは単なる怪獣ではなく、海中での核実験の影響を受けて誕生した悲劇の生物であり、それでいて、口から放射線を吐いて都市を破壊し尽くす(人間にとっての)害悪でもあるという、二面性を併せ持つ社会的メタファーです。かつての被爆国である日本の象徴としての意味合いは薄れてきていますが、戦争による悲劇と破壊の象徴としての存在意義については、ウクライナパレスチナで戦争が勃発している今、強く意識せずにはいられません。

その一方で、対峙すべきものがあってこそ反動的に自分の存在意義を深く探求するようになり、その過程の中で「あるべき自分の姿」に辿りつくというのもまた、否定できない人の本質です。目標を見失いがちな現代人こそ、実は、必要悪としてのゴジラを求めているのかもしれません。

さまざまな捉え方があるところですが、この壮絶な人々とゴジラとの戦いを目撃して何も感じない人はいないでしょう。一級のエンターテイメントでありながら、観る人の心にちゃんと「引っ掛かり」を残してくれる。大変に見ごたえのある素晴らしい作品でした。最近の日本映画は、本当に良作が多いですね~!