山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(No Time to Die)

私は007シリーズの熱心なファンというわけではありません。アクションスパイ映画というジャンルで言うと、世代的にも志向的にも完全に「ミッション:インポッシブル」(Mission: Impossible)シリーズ派で、007シリーズについてはジェームズ・ボンドJames Bond)役がダニエル・クレイグ(Daniel Craig)になってからしばらくしてようやく見始めたという状況です。ただ、一映画ファンとしてダニエル=ボンドを敬愛しており、本作も公開前から楽しみにしていました。

ご存じのとおり、本作はダニエル・クレイグがボンドを演じるシリーズの最終作。まず、挨拶代わりの冒頭のアクションシーンから入って、一瞬の静寂の後に、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)が歌う主題歌が流れるオープニングがクールでありながらも情緒的でとても良かったです。これだけで、憂いを帯びた007の世界観に引き込まれていきます。このダニエル=ボンドシリーズ、とりわけ本作を含めた直近三作は、いずれもオープニングムービーの楽曲と映像のコンビネーションがとにかく秀逸でした。

物語の前半部分では、引退して周囲からも過去の人物と目されていたボンドが現場に復帰する過程が描かれており、寄る年波に抗おうとするボンドの葛藤と哀愁が上手く表現されていると思いました。後半は、全盛期さながらの激しいアクションシーンの連続で、ハイテンションのまま一気に最後まで突っ走るという感じでした。幕引きの迎え方がちょっと強引な気もしましたが、荒っぽい物語展開は良くも悪くもこのシリーズの特徴の一つですので、私は割り切って受け入れてしまいました。

本作初登場のアナ・デ・アルマス(Ana de Armas)が演じるパロマ(Paloma)は、シリーズ史上最も若々しく美しい大変魅力的なボンドガールだったので、もう少し長くスクリーンで見ていたかったです。もう一人のボンドガールであるレア・セドゥ(Lea Seydoux)演じるマドレーヌ(Madeleine)は、前作から続投で、憂いを秘めたアンニュイな表情が画面に広がると作品の世界観がグッと締まる気がして、やはりこの人抜きには作品が成り立たないなと思わる存在感でした。対して、敵役のサフィン(Safin)は、能面、和室、日本庭園などのジャポニズム趣味が不気味さを引き立てていたものの、キャラクター単体として見るとちょっと薄っぺらさは否めないように思いました。

ダニエル・クレイグは前作「スペクター」(Spectre)のときにも降板をほのめかす発言をしており、同作自体も、エンディングでボンドがスパイを引退してしまうなど、最終作になっても違和感のないような作りになっていました。しかし、その後、満を持して「正真正銘の最終作」として本作が制作され、実際、一つのシリーズ作品が終幕を迎える様を固唾を飲んで見守ることができて、大きな感慨を覚えました。最後に、総括として、私が考える007シリーズの「楽しみ方」をご紹介したいと思います。

・ オープニングの激しいアクションが終わり、オープニングムービーのメロディアスな楽曲と不安を掻き立てる映像のコラボレーションまでを1つの短編映画として楽しむ。

・ 舞台となる世界中の様々な場所の美しい風景を、一種のロードムービーとして堪能する。

・ 車、時計、洋服の着こなし、酒の飲み方、何気ない佇まい・・・ボンドのカッコよさに酔いしれる。

・ 毎回登場するお決まりのセリフがさく裂するのを聞いてニヤっとする。「Bond. James Bond.(ボンド、ジェームズ・ボンド)」「Vodka Martini, Shaken, not stirred(ウォッカマティーニをステアせずにシェイクで)」など。

・ ストーリーや設定の詰めが甘い部分、登場人物の行動原理が良く分からない点は、多めに見る。「雰囲気はあるが意味は分からない」類の会話が続くこともあるが、やはり多めに見る。