山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「BLUE GIANT」

普段、漫画を読む習慣が無い私が唯一単行本を追いかけているのが「BLUE GIANT」。ジャズをテーマにしたちょっとめずらしい作品ですが、白黒の線画からなぜか楽器の音色が大音量で響いてくる、凄まじい迫力の、そして無性に泣ける傑作なんです。その「BLUE GIANT」の劇場版が遂に公開されました。完成度の高い原作に慣れ親しんだ立場としては、劇場版で作品のイメージが壊れてしまうのが恐ろしく、しばらくは観に行くのを躊躇していました。・・・が、やはりどうしても気になり、意を決して観に行ってきました。

主人公のダイは、高校時代に見たジャズバンドのテナーサックスに魅了され、世界一の咲来プレーヤーになることを目指してサックスの練習に打ち込みます。圧倒的な熱量と集中力で、毎日河原で一人ひたすらサックスを吹きまくる。その情熱が込められたダイのサックスの音色は、粗削りでありながらも、聞く人の心に直接響き渡り感動を与えます。そのダイが高校を卒業して上京し仲間を集めてジャズバンドを結成するあたり、原作で言うと4巻あたりから本作のストーリーが始まります。

映像自体のクオリティに関して言うと、同時期に公開されていたスラムダンクと比べて見劣りすることは否めず、最近のアニメーション作品ですっかり目が肥えた視聴者にとってはぎりぎり及第点という感じではないかと思います。それぞれ異なるスタッフによって作成されているのか、2Dセル画調の映像とCGによる3D映像の繋がりがぎこちない感じだったのが気になりました。エンドロールを見たところ韓国や中国のアニメスタジオもヘルプに入っていたようで、そのあたりの統率や連携が難しかったのではないでしょうか。

とは言え、演奏シーンの中に挿入される抽象画のような映像のセンスは素晴らしく、ここに上原ひろみさんの監修による素晴らしい音楽が加わることで、特に終盤の演奏シーンの迫力は本当に言葉を失うほどでした。映画を見ているというよりも、ジャスバンドの生演奏を間近で聴いているような感覚になり、胸の中に表現しようのない感情の渦が巻き起こって自然と目から熱いものがこぼれ落ちました。原作とは違った形の表現に果敢に挑み、それを見事に結実させているのは本当に素晴らしいことです。

原作未読の方はビジュアル面での欠点はそれほど気にならないでしょうから、ますます楽しめるのではないかと思います。映画の素晴らしさとともに、音楽の素晴らしさも堪能できる稀有な一作です。