山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「オットーと言う男(A Man Called Otto)」

元々はスウェーデンの若手(私よりも若い!)作家であるフレドリック・バックマンの小説で、これを原作としたスウェーデン映画「幸せなひとりぼっち」がヒットしたことを踏まえて、これをさらにリメイクして制作された米国映画。という作品の背景をほとんど知らないまま半ば飛び込みで観たのですが、非常に温かみのある雰囲気に仕上がっていて、とても良い映画でした。タイトルがダサいために、ちょっと損している気がします。

トム・ハンクスが演じる主人公のオットーは、偏屈で孤独な独り者の老人男性。とにかく偏屈で独善的であり、他人に対して心を開かず、何かにつけて「馬鹿者」(idiot)と人を罵ります。妻に先立たれてから、自分も後を追うことばかりを考えており、日常生活の中でちょっと未練が残りそうなできごとが起きてもすぐに死への誘惑に引き戻されてしまいます。このようなオットーが、隣人のドタバタに巻き込まれるうちに徐々に生きることの喜びを取り戻していくというのが話の筋です。

オットーを取り巻く隣人は、ヒスパニック系(スウェーデン版ではイラン系という設定だったようです)の家族やLGBTに対する抑圧に苛まれている若者、はたまた難病を抱えた病人だったりして、皆、社会的に弱い地位に立たされている人たちです。偏狭な価値観に凝り固まっているオットーですが、意外にも社会的弱者に対する偏見や差別心は全く無く、逆に弱い者を放っておけないという正義感から彼らを助ける行動に出ます。現代的な保守思考と言うのか、個人と社会の関係性について古典的な分断論では咀嚼できないオットーのパーソナリティ自体が、本作の一番の魅力ではないかと思います。

オットーの心に張った分厚い氷が溶けていくうちに、仏頂面に代わって笑顔が増えていく様子がとても心に染みました。生きることに疲れて絶望の中で死を選ぶのではなく、充実した人生の中で満を持して死を迎えたオットーは、大変な幸せ者だったと思います。全く派手さはありませんが、ユーモアもあり、悲しくもあり、じんわり炎が灯ってふっと消えるような儚さを感じさせてくれる作品でした。