山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「ボヘミアン・ラプソディ」(Bohemian Rhapsody)

伝説のロックバンド、クイーンの軌跡を追ったノンフィクション映画です。11月のある日、特に目当ての作品があるわけでもなくふらっと映画館に立ち寄ると、ちょうどボヘミアン・ラプソディの上映が始まる直前ではありませんか。クイーンの軌跡を追ったノンフィクション映画だという程度の予備知識しかありませんでしたが、何となく予感のようなものを感じ、チケットを購入して劇場に突入。さて、どんな映画なのでしょう。

なるほど、クリーンはこうやって結成されたのね。
あはは、フレディ・マーキュリーは若い頃からぶっとんでるなあ。
これもクイーンの曲だったのか。
フレディ大丈夫?やっぱりそうなるよね。
おー、ここでこの曲が来るのか。
あれ、目から熱いものが・・・

賛否両論はっきり別れているようですが、私の心にはズバッと刺さりました。私はクイーンについて特に深い思い入れがあるわけではなく、作品中で次々に流れる彼等の曲を「この曲もクイーンだったのか」と驚きながら聞いていたほどですが、それでも、彼等の音楽性やパフォーマンス、そしてカリスマ的な魅力についてたっぷりと味わうことができました。作品の持つ強烈なパワーに圧倒され、エンドロールが終わって劇場内が明るくなってもしばらくは非現実的な感覚から戻れずにいました。

何と言っても、ラミ・マレック(Rami Malek)が演じたフレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)の再現性の高さが素晴らしいですね。実際のフレディをリアルタイムで知らない私にとっては、再現性というよりも説得力というべきかもしれません。仕草や話し方、表情まで徹底的に研究したということだけあって、「フレディ・マーキュリーとはこういう人物だ」ということが、ものすごい説得力をもって伝わってくるのです(リアルすぎて気持ち悪いという意見もあるようです)。フレディが背筋を伸ばす独特の仕草でビアノを弾くシーンがなぜか脳裏を離れません。

ライブやレコーディングでの演奏シーンの心躍る雰囲気も素晴らしかったです。特に、最後のライブエイドのシーン。セリフが全く無いまま延々とライブシーンが続くのですが、大音量で流れる楽曲に身と心を委ねてライブパフォーマンスを眺めているうちに、魂が揺り動かされるような感覚を覚えました。

本作では、フレディがAIDSに感染した事実は描写されていますが、その後の顛末は一切触れられておらず、作品はライブエイドでの最高の熱狂のまま幕を閉じます。誰もが知っている重要な事実が映画の中では語られていないわけですが、それが故に、興奮と熱狂が最高潮に達したライブパフォーマンスのシーンの中にも、ある種の「滅びの美学」を感じてしまいます。これが絶妙なスパイスとなって本作の余韻を深く引き立てているように感じました。

何の気なしに入った映画館で魂が震える経験をしました。印象に残る良い作品との出会いというものは、得てして思いがけないものですね。