山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「キングダム2 遥かなる大地へ」

国民的漫画「キングダム」の映画化作品。大ヒットした前作から3年、いよいよ続編が公開されました。撮影開始直後にコロナ禍に見舞われ、撮影の大半を日本国内で行うようにするなど大幅な計画変更を余儀なくされたそうです。さて、大変な苦労を乗り越えて公開まで辿り着いた本作、どんな出来栄えになっているでしょうか。ちなみに、前作のレビューはこちらになります。

紀元前3世紀を舞台として、秦国の王・嬴政(後の始皇帝)が中華統一を果たすまでの戦乱の世を、若き武将・信(李信)の目線から描いた物語。生と死が隣り合わせの世界に生きる人間たちの魂のぶつかり合いを真正面から描く、真夏の太陽よりも更に熱い作品です。

まず、計画通りにいかなかったというのが嘘であるかのような壮大な作りに、驚かされました。武侠ものの中国映画やドラマを見慣れている私の目にも、合戦シーンを含めてそれほど違和感は感じられませんでした。CGによりある程度カバーできるとはいえ、日本国内での撮影を中心にせざる得ない状況でこれだけのスケールのビジュアルを作り上げるまでには、非常な苦労があったはず。詳細は知る由もありませんが、おそらくは技術面で大変な創意工夫を凝らしているのだと思います。製作陣の情熱の結晶を目の当たりにした気がしました。

ストーリー展開も、前作で少々気になったテンポの悪さが解消されていて、最初から最後まで視聴者を作品の世界に没入させるだけの吸引力が維持されていました。漫画的なご都合主義的展開や感情表現についてのネガティブ意見も耳にしますが、原作は原作、映像は映像として単体の作品としてとらえた上で、作品ごとに異なる原作と映画作品との関係性自体を楽しむというのが、私の鑑賞スタイル。しかも、本作は原作未読ですので、鑑賞中にもその場面自体を楽しむのと同時に「原作漫画ではどう描かれているのだろう」と考えたりして、一粒で二度美味しい気分を味わっていました。映画は、中庸な精神、鷹揚な気持ちで観るに限ります

主演の山﨑 賢人さん、前作よりも顔に精悍さが増し、体躯も明らかに分厚くなってアクションシーンでの動きも良く、演技の面でも、信という熱血漢のキャラクターを完全に体現していて見事でした。脇を固める俳優陣も前作に負けず素晴らしく、特に、一騎討ちを果たす二人の将軍を演じる豊岡悦司さんと小澤征悦さんは、その表情や仕草から醸し出される「ただ者ではない」感に圧倒されました。ここに大沢たかおさんが加わり、特に言葉での説明は無くとも、主人公・信が乗り越えるべき先達たちの壁の高さが自然と滲み出ていて、これから先に果てしない道のりがあるのだということが暗示されている気がしました。

本作の主人公・信は向こう見ずな熱血漢であり、「周りの者に迷惑をかけることも多いが、同時に、困難な状況を切り開く原動力にもなっていく」という、なんとも古典的なヒーローです。どこか冷笑的な人物像が描かれることが多い現代にあって、このような古めかしく暑苦しいヒーローは、却って稀有な存在に映ります。私は、情熱を燃やし続けて猪突猛進する信の雄姿に心を打たれ、それと同時に、退廃的な感情に支配されがちな己を改悟し、映画館を後にしました。ああ、信のように真っすぐに生きることができたら・・・!

そうそう、これから映画館で見る人は、是非エンドロールの最後まで座席に座っているようにしましょう。ちょっとした嬉しいサプライズがありますよ。