山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」


前回レビューした「恋は雨上がりのように」が良かったので、Netflixで同じ小松菜奈さん主演の本作を観てみました。劇場公開は2016年12月で、当時はライトノベルにありがちな(実際、ライトノベルが原作です)中二病のようなタイトルが好きになれず、映画館で観ることは回避したのですが・・・いやいや、素晴らしい名作ではないですか。後半から涙が止まらなくなり、最後は涙腺が崩壊しました。タイトルで損をしているような気がしてなりません。


私はいわゆるベタな恋愛映画はあまり得意ではないのですが、本作の世界観には冒頭からすっと入っていくことができました。少しSF的な要素が入った青春恋愛劇でありながらも、京都の美しい街並みを背景にして、華美な演出をせずに主人公の二人の感情をひたすら追っていく、非常に大人っぽい作りがなされている作品だと思いました。例えて言うなら、古典的な技法で作った現代建築という感じでしょうか。

主演の小松菜奈さんの美しさも際立っていますね。どちらかというと個性的な役柄が似合う女優さんだと思っていましたが、愛嬌のある可愛らしい女性の役でも見事に自分の色で演じきってしまうとは恐れ入りました。

さて、主人公の二人は結局、30日間だけ恋人として過ごすことができるだけで、それ以上人生をともに歩むことは運命が許しません。そのかけがえのない30日を大切な思い出として、別々の人生を歩むことになります。

でも、これって実はとても素晴らしいことではないでしょうかね。だって、恋人として長く付き合っても、結婚して家庭を築いても、結局、自分と自分以外の人間とで人生の全てを完全に共有することはできません。せっかく近くにいて同じペースで人生を歩んでいても、破局や死別など何からの形で必ず別れが来てしまいますから。

それに引き換え、本作の主人公二人は最初から遠くにいて、それでいて輪廻する人生の中で永遠に思いや経験を共有し続けています。リアルな恋人同士の期間は短いけれども、その分、そこで経験したことを美しい記憶のまま冷凍保存して、二人で一つの人生を歩むように生きていくことができるのです。きっと、この先ずっと豊かで優しい気持ちを持って人生を送っていくことでしょう。なんとも羨ましい生き方です(だからと言って涙を止めることはできないのですが)。

恋は雨上がりのように」に続いて映画館で観なかったことを後悔する羽目になりました。いや、良い年したおっさんがカップルに混じって恋愛映画を観て号泣するのはどうかと思うので、やはり映画館で観ないで正解だったかもしれません・・・