山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「スパイダーマン: スパイダーバース(Spider-Man: Into the Spider-Verse)」

スパイダーマンシリーズの初のアニメ映画。実写版のシリーズ作に対する思い入れから、スピンオフ的なアニメ作品である本作についてはあまり関心を持っていませんでした。しかし、先月末にアカデミー賞(長編アニメ映画賞)を受賞して大きく話題になり、日本での公開直後から良い評判が耳に入ってきていましたので、やはり気になって観に行ってきました。

オリジナルなスパイダーマンが殺されてしまうという衝撃的な設定に、異次元の世界から集まった様々なスパイダーマンが一同に集結して悪に立ち向かうという奇想天外な展開。そして、アメリカンコミックがそのままアニメになったような個性的な絵柄とカラフルな色彩。ともすれば雪だるまのように不評を集めそうな尖った要素がうまく調和されていて、アニメであることを最大限に活かして新しい作品を生み出そうという制作陣の気概が良い形で発揮されていると感じました。

スパイダーマンシリーズ特有のスピード感のあるアクションも健在で、アクショーンシーンの迫力は実写版に勝るとも劣りませんね。普通のヒーローもののアニメ映画として見れば、非常に良く出来ている作品だと思います。

が、ここからは少し辛口の講評になります。本作はあくまでもスパイダーマンの映画。スパイダーマン映画として見た場合は、残念ながらちょっと物足りなさを感じてしまいました。改めて考えてみると、サム・ライミ監督3部作の最初の一作から続くスパイダーマンシリーズは、ヒーロー映画でありながらヒーローの存在意義について強烈なアンチテーゼを突きつけるシニカルさが最大の魅力ではないかと思います。

まず、主人公であるスパイダーマン自身が、ヒーローとしての自分と素の自分との矛盾に葛藤しジレンマを抱えています。悪役である敵のキャラクターもまた、複雑な背景事情を抱えてやむにやまれず悪の道に手を染めています。このような葛藤に苛まれている主人公と哀愁漂う敵が対峙して肉弾戦を繰り広げ、お互いが傷ついていく中で、善と悪が極めて相対的なものであるということが浮き彫りにされてくる。これこそがスパイダーマンシリーズの最大の魅力だと思うのですね。

その点、本作は主人公も敵役もどこかあっけらかんとしています。内面での葛藤が無いわけではありませんが、あまり同情を誘うようなものではありません。登場人物たちは、自分の進もうとする道を塞ごうとしている者がいる、だからこらしめてやる!という単純な動機によって突き動かされているようにも見えます。

でも、私達は本当にそんな単純な動機で猪突猛進するでしょうか?もっと、いろいろと、悩みを抱えながらも優先すべきことに順位をつけて最も合理的だと思える行動に出るのではないでしょうか。実写版シリーズにあったそのあたりの奥ゆかしさが本作では感じられなかったのが、ちょっと残念なところでした。スパイダーマンの映画でなければ、こんな感想は持たなかったと思いますが・・・

ここ数年、ハリウッドでは複数のヒーローが一大集結!というテイストの作品が大量生産されていますが、こういった映画は、とにかく映画の題材になるような様々な要素を詰め込んだ挙げ句、いずれの要素も消化不良になって終わってしまうケースが多いように感じます。もっと登場人物を絞って、シンプルな人間関係の中でシンプルなストーリーで映画を作れないものでしょうかね。なんでも詰め込み式の「足し算」の映画よりも、単純さを突き詰めた「引き算」の映画を観たいです。