山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「パラサイト 半地下の家族」

公開直後から良い評判を聞いていたものの、観に行くことができずにいた本作。そうこうしているうちに、アカデミー賞作品賞の受賞により世界的な大ヒット作になってしまいました。遅ればせながらようやく観ることができました。

半地下に住む貧しい一家が、素性を偽って裕福な家庭にパラサイト(寄生)するという物語。前半では、貧しい一家が機転と才覚を働かせてパラサイトするために巧妙に立ち回る様子が面白おかしく描かれます。後半は一転して、パラサイトが崩壊しそうな状況をどう切り抜けるかという緊迫した展開。この先どう転ぶかわからない「一寸先は闇」の場面が続いた末に、あっと驚く結末に至ります。

閑静な住宅街に建つ広い邸宅、その上層階に住むのは、経済的にも恵まれ人格的にも温厚な一家。一方、同じ家の薄暗い地下や貧困地域の半地下に住むのは、貧しく、常に自分を卑下している家族たち。本作は、こういった物理的、社会的両面での垂直構造の中で、人間関係の綾や登場人物たちの深層心理を浮き彫りにしていきます。

貧富格差という社会問題を取り扱いつつも、そこには「だから格差を解消すべきなのだ」などという社会的なメッセージはほとんど含まれていません。あくまでも、物語を作る土台として貧富格差というプロットを拝借しているだけなのですね。この点は、以前このブログでレビューした、昨年のアカデミー賞作品賞受賞作「グリーンブック」(Green Book)が、黒人差別、同性愛差別、移民差別といった要素を取り込みつつも、それらを上手に調理してエンターテイメントとして見せていた点に通じるものがあり、非常に興味深く感じました。

貧しい一家を演じる役者の演技もキラリと光っていました。中でも、父親役を演じたソン・ガンホの「表情豊かな無表情」の演技は、まさにプロの技。韓国には本当に良い監督と良い役者が揃っていますね。

本作のアカデミー賞作品賞受賞は、アジア映画の歴史に燦然と輝く勲章となりました。日本映画もどんどん追随していってほしいと思います。