山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「そして、バトンは渡された」

瀬尾まいこさんの原作小説の実写化作品。予告編が面白そうだったので公開直後から観に行く機会をうかがっていて、先日、公開終了間際にすべり込みで鑑賞することができました。複雑な家庭環境の中で様々な困難に直面しつつも健気に真っすぐに生きようとする主人公の女性の成長の過程と、父と母の絆を、時にユーモラスに、時に物悲しく描いた物語です。

主人公の優子を演じる永野芽郁さん、優子を男手一つで懸命に育てる森宮役の田中圭さん、優子と森宮を置いて家を出て自由奔放に生きる梨花役の石原さとみさん、優子の恋人である早瀬役の岡田健史さん。この主役級四人の演技がとにかく素晴らしく、楽しい場面も悲しい場面も、すっかり映画の世界に没入してしまいました。岡田健史さんは本作で初めてちゃんと目にしたのですが、単なる爽やかイケメンではなく、ちゃんと地に足の着いた確かな演技ができる役者さんですね。これからどんどん活躍していくのではないでしょうか。

優子は、結局、父とも母とも血が繋がっていないのですが、決してしおらしくなることはなく、その時々で「今」を一生懸命に生きて、芯の通った強い女性に成長していきます。血の繋がりのない父に尊敬と感謝を欠かさず、家を出て行った母を、恨むのではなく愛おしむ。ちょうど本作を鑑賞するときに苦虫を噛み潰したような気持ちを抱えていた私は、この優子の真っすぐな人柄に触れて、心が洗われたような思いがしました。

最後にネタバレで恐縮ですが、後半で、大人になった優子が小学四年生のときに生き別れた実の父・水戸と約10年ぶりに会うシーンがあります。父がいるはずの農園の入口で躊躇している優子の姿に水戸が気付き、思わず「優子なのか?」と問いかけます。それを聞いた優子もまた思わず「わかるの?」と返します。そう、心のどこかでずっと気にかけている相手は、何年ぶりに会ったとしても一瞬で昔の姿の記憶が蘇って、それと同時にいま目の前にいる相手のことも認識できるものですよね。

この心理描写が原作由来のものかどうか未確認なのですが(原作未読ですみません…)、個人的には一番印象に残った場面でした。ちょっと嫌なことがあった日などに観ると、「また明日から頑張ろう」という元気をもらえるような、そんな温かい人の心が溢れた作品です。