山猫が見た世界

生息地域:東京、推定年齢:40歳前後、性別:オス

映画:「マスカレード・ホテル」&「検察側の罪人」

最新の木村拓哉さんの主演映画を二作続けて観てみました。いずれもミステリ小説の原作を映画化したものです。まずは劇場公開中の「マスカレード・ホテル」。東野圭吾さんの作品でこれまで映像化されたものは重苦しいタッチのものがほとんどで、こういった軽快な雰囲気のものは珍しいですね。どんな雰囲気に仕上がっているのか、期待を胸に映画館に行ってきました。

連続殺人事件の犯人が次の犯行場所をホテルに指定したことから、木村拓哉さんが演じる刑事が、ホテルマンに扮してロビーに立ち、長澤まさみさん演じるフロント従業員の指導を受けながら潜入捜査を行うという物語です。設定があり得ないという点は多めに見ましょう(笑)。あの不朽の名作「インファナル・アフェア」だって、ヤクザが刑事なり、刑事がヤクザになってそれぞれスパイ活動をするという超絶あり得ない設定でした。

本編が始まってすぐに、良くも悪くも、映画というよりもテレビドラマのような作りだと感じました。物語の舞台がほぼホテルの中で固定されて代わり映えしない反面、有名俳優たちが演じる様々なキャラクターが次々に登場し、目まぐるしく話が進んでいきます。登場人物の感情を深く掘り下げることを潔く放棄し、とにかく細かい話を沢山繋いでいく。新しく登場したキャラクターの顔を大写しにしたり、ホテルのロビーで360度カメラを回転させて全体を写したりと、カメラワークもテレビドラマ風。やはり、製作元であるフジテレビの意向が隅々まで働いているのでしょうね。

映画として捉えると若干食傷気味になるところですが、テレビドラマを観てる気になって考えてみると、なるほど、娯楽作品としてはこういう作りもありなのかもしれません。エンターテイメント人情劇の要素を保ちつつ、基本となるミステリの部分をしっかりと描いているあたり、絶妙なバランス加減で心地よく感じました。木村拓哉さんと長澤まさみさんの掛け合いも、徐々に変化していく関係性が表現されていてとても良かったです。

総じて言うと、テレビドラマのファン向けに作られたエンターテイメント作品としては、なかなかの佳作と言えるのではないかと思います。

さて、次は、雫井脩介さんのミステリ小説が原作の「検察側の罪人」。主演は、木村拓哉さんと二宮和也さんのジャニーズ事務所の先輩・後輩コンビ。昨年の夏に公開されたばかりでまだ動画サイトでは観ることができませんが、運良く台湾に行く飛行機の中で観ることができました。

物語は、木村拓哉さんが演じる中堅的な立場にある検察官・最上に、二宮和也さんが演じる若手検察官・沖野が検察官としての心構えについて薫陶を受けるところから始まります。あこがれだった最上と一緒にある事件の捜査に乗り出した沖野は、思いがけず、捜査の過程で最上と対立するようになります。人によって、立場によって、「正義」の貫き方が異なるという矛盾に直面した彼らは、それぞれ葛藤を抱えて苦悶します。

あらすじからもわかるとおり、本作はコメディ要素が多かった「マスカレード・ホテル」とは違い、渋い雰囲気の社会派ミステリ作品です。テレビ的な過剰な演出とも無縁で、厳かに物語が進んでいく中で登場人物の心情をあぶり出していく、言わば「映画らしい映画」です。主演の木村拓哉さんと二宮和也さんからは迫力ある演技から「良い映画を作ろう」という気概が伝わってきて、非常に良かったです。

好きなテイストの作品なので敢えて厳し目に言うと、物語や役者の演技は良いのですが、作品全体としてそれを十分に活かしきれていないように感じました。監督の意向なのか、はたまた様々な利害関係者の意見が錯綜した末のものなのかはわかりませんが、伏線が回収されないまま終わってしまったり、意図がわからないシーンがあったりと、どうにもちぐはぐな点が散見されました。編集段階で大胆にアレンジするだけでも、もっと洗練された作品に仕上がった可能性もあるのではないでしょうか。ちょっともったいないですね。

いろいろ言われている木村拓哉さんの演技ですが、今回、「マスカレード・ホテル」「検察側の罪人」と立て続けに観てみて、立ち姿や後ろ姿一つでその場面の「空気感」を作ってしまうあたり、やはり並の役者ではないと思いました。今後の出演作にも期待したいです。